地区二回戦負けだった貧弱な男が県の決勝まで上り詰めた話。

中学生の頃に、柔道を始めた。

父親が中学時代に柔道をやっていたという話を幼い頃から聞いていた。
幼い頃に、よく、相撲をしたり、ボクシングの真似っこをしたり、柔道をして遊んでいた。

本当はバスケ部とか、サッカー部とか、陸上部に入るつもりだった。
しかし、色々と見て回るうちに「先輩が怖そう。」「練習がキツそう。」「続けられるか不安」みたいな弱気が顔を出していた。
迷いに迷ってたどり着いた先は柔道部だった。あまり見たことのない光景で柔道着を着て汗だくになっている姿に、私は妙な高揚感を覚えた。

一般的な感覚だと、柔道というイメージは地味でダサくて臭そうで、パッとしない。そんな印象だろうか。

しかし、昔から人と同じ事をするのが苦手だった私は真っ先に柔道部に入部を決めた。

当時の私はひょろひょろで、確か162cmで、45〜6kgくらいしかなかったと思う。貧弱だった。

ガリガリな身体にブカブカの柔道着を着て練習をすれば、先輩や同級生にも簡単に捻り潰され投げられていた。

試合に出ても緊張して技も出せずに負け、中学三年生の頃の最後の大会では地区二回戦で簡単に負けてしまった。

悔しくていつも泣いていた事を覚えている。

周りの同級生は、それほど柔道に対する思い入れがあった訳ではなかった。
練習はテキトーにやって、試合で負けてもヘラヘラしていた。
何故か本気だった私は周りの同級生の態度があまり理解できなかった事を覚えている。
当時、謎に本気だった私は他の同級生と明確に違った事がひとつある。

それは「絶対に強くなる」という気持ちを持ち続けていた事だろうか。

私はとにかく強くなりたかった。
理由は今でもよく分からないが、何が何でも強くなってみんなを見返してやりたいという気持ちが人よりも強かった。

高校に入っても絶対に柔道部に入って絶対に強くなる。と心に決めていた。

しかし何も結果は伴わない。体力も実力も何もなかった。

高校に入って柔道部に入部した。
同級生は確か9名くらいいた。

同級生の強い奴にはボコボコ投げられて、先輩には奥襟を掴まれて身動きも取れずに毎日ひねり潰されていた。

気持ちは強くなりたいとは思っていても身体がついていかなかった。
パワーがないのか、スタミナがないからなのか、技が下手くそだからなのか。

初めの頃はパワーもスタミナもないし、技も下手くそだ。

練習では毎日捻り潰され、試合に出ても結果は出ない。
自分に問い続けながら、どうしたら強くなれるのかを毎日考えていた。

しかし、私には謎の自信があった。

結果はついて来なくても必ず強くなる。という根拠のない自信だけは何故かあったのだ。

そんな事をひたすら続けていて、努力と練習に対する姿勢が認められたのか、団体戦ではレギュラーメンバーとして起用された。

しかし、やはり実力は伴わずあまり勝つ事は出来なかった。
試合に出ると緊張してしまい身体が動かなくなる。そして技も中途半端だ。

気持ちだけが前に出ている。そして結果は伴わない。

そんなパッとしない時期がしばらく続いていた。

そんな私は試合があるの、同学年の県のトップクラスの選手はどんな動きをしているのかをよく観察していた。

見ていると、動きが軽やかで、いとも簡単に技を次から次へと繰り出し簡単に一本を取っていた。
この違いがなんなのか、私には分からなかった。

何故そんなに技が出るのか。
何故そんなに動きが軽いのか。
何故一本を取れるのか。

この違いが全く分からなかった。

当時の私がいつもなんとなく気になっていた事がある。
一本を取れない事だった。

しばらく試合に出続けるうちに勝率は上がっては来ていた。
しかし、
一本を取る事が出来ない。技も出ない。緊張する。

これまたパッとしない時期が続いていた。

今、客観的に当時の自分を振り返ると試合中にいつもこんな事を考えていた。

「投げたい。投げて勝ちたい。背負い投げで一本を取りたい。絶対に投げる。絶対に投げる。」

一言で言うと、【こだわり】だ。

一本で勝つ事と、投げて勝つ事に意識を集中させすぎて他のチャンスを逃していた。

そんな事を思えば思うほど、技は出なくなり、相手にも動きを読まれる。
そして、技を出せば中途半端な投げになり一本なんか取れる訳がなかった。

当時の私はその事に全く気がつかなかった。


そんな私にも転機が訪れる。

高校2年生の頃、ある試合に出た。

試合に慣れてくると、以前のような妙なこだわりは消え失せていた。
その代わりに確信のある、根拠のある自信が私を包んでいた事を今でもはっきりと覚えている。

ある瞬間、得意の背負い投げを放った。

パチーンと綺麗に一本が決まった。

その時は何故、一本を取れたのかは分かっていない。

一言で言うと、
「身体が勝手に動いた。」
そんな感覚だった。

今までパッとしなかった時期は身体ではなく頭で考えて試合をしていた。
「投げたい。勝ちたい。一本を取りたい。」という気持ちが強かった。
頭で考え過ぎているから身体が動かなくなるのだ。
その結果、技が出ず、勝ってもパッとしない結果に終わっていた。

しかし、見事な背負い投げでの一本を初めて決めた時の感覚はこうだ。

【何も考えずに技が出た】

思考を介さずに、身体が勝手に動くのだ。技が身体に染み込んだのだろうか。

勝手に身体が動いてしまい超納得の一本勝ち。

この日をキッカケに私の中の何かが変わった。

試合に出れば7、8割の確率で一本を決めた。
そして、変な試合をして負ける事もほとんどなくなってきた。

「相手を掴めば投げられる」

見事な自信が自分の中に確立した。

更にコツを掴んだ私は高校3年の最後の大会では県大会個人戦準優勝まで上り詰める事が出来た。

あと一歩でインターハイだった。惜しい(笑)

やはり頭よりも身体で覚える事だ。
私はこの事を柔道を通して学んだ。

この感覚の違いは、柔道に限らずあらゆる事にも言える。

頭で考え過ぎて何もできなくなるよりも
身体に任せて思い切ってやる。

思考を介さずに湧いてくる
「今だ!」
「ここだ!」という感覚。

極めて一瞬の感覚だが、この身体感覚を掴むことがあらゆる事の成功の鍵ではないかな。と最近考えている。